大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和31年(く)104号 決定

本籍 群馬県○○○郡○○村大字○○○○○番地

住居 東京都○○区○○○○丁目○○番地

少年 無職 加茂俊一(仮名) 昭和十五年四月三十日生

抗告人 少年

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告趣意の要旨は、「抗告人は、昭和三十一年十一月九日東京家庭裁判所の審判で、抗告人を中等少年院に送致する旨の決定を受け、○○少年院に送られることになつたが、抗告人は、これよりさき昭和三十一年十月二十三日、同裁判所の審判で、埼玉県○○町の保護団体○○少年塾に送られたところ、四人で逃走してしまつた。それは、抗告人と同じ所で仕事をしていた三人が、どうしても逃げようというので、抗告人としては逃げたくはなかつたけれども、一人ではどうにもならず、一緒に逃げてしまつたのです。そして、三人のうちの一人が、熊谷によく知つている者がいるというので、そこに行つて三日ばかり世話になつている間に、また皆で悪い事をしようという相談になつたが、抗告人は、警察にいる時から、もう悪い事はしないと心から誓つたのでしたけれども、皆に三日ばかり世話になつた義理もあるので、しかたなく、恐喝をやつて来るといつて、東京の方へ行くトラックやオート三輪をとめて蒲田まで帰つて来て、すぐ家に帰つたのです。抗告人は、○○少年塾を逃げたことは、本当に心から悪いと思つていたので、すぐ母と一緒に東京家庭裁判所まで二、三回行つたのですが、判事に会えず、そのうちに、母が病気になつてしまつたので、十四日ばかりたつて、病気がなおつてから、抗告人と母と保護司と三人で東京家庭裁判所へ出頭して、判事によくあやまつたのですが許されず、遂に、○○少年院に送られることになつてしまつたのです。抗告人は、逃走したことは心から悪かつたと思つておるし、抗告人の家庭は、家族が多いのに、働手が少く、生活が苦しいので、抗告人も、今度はどんなつらい事があつても、真面目にやろうと心から決心しておることであり、母も保護司も今度一回だけは引き取りたいと望んでいることでもあるので、このような抗告人を中等少年院に送致する原決定の処分は、重きに過ぎて著しく不当であるから、これが取消を求めるため、本件抗告に及んだ。」というのである。

そこで、一件記録を精査して、これに現われた抗告人(少年)の生育歴、非行歴、家庭環境、性向並びに非行の要因等を検討し、これらを総合考察するのに、原決定の処分は、けだしやむをえないところであると認められ、抗告人が主張するように、重きに過ぎて著しく不当であるとは考えられないから、原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないものといわなければならない。

よつて、少年法第三十三条第一項後段、少年審判規則第五十条に則り、本件抗告を棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 中西要一 判事 山田要治 判事 石井謹吾)

別紙(原審の保護処分決定)

少年 加茂俊一(仮名) 昭和一五年四月三〇日生 職業 無職

本籍 群馬県○○○郡○○村大字○○○○○

住居 東京都○○区○○○○の○○

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

罪となるべき事実

少年は

(1) 昭和三一年九月二四日午後二時三〇分頃より同五時頃の間に○○区○○○一の一七先○○○○池側空地に於いて、○○区○○七の二〇五H(四六才)の所有に係る婦人用自転車一台時価一八、〇〇〇円相当を窃取したるほか

(2) 別紙記載の通り

適条

刑法第二三五条、同第二四六条

保護処分に付する事由

少年が上記の如き非行を犯したことは少年に係る本件記録の全体ならびに審判廷における少年の供述を綜合してこれを認める。

少年の生育歴、非行歴、家庭環境、性向ならびに非行の要因については少年に係る少年調査票並びに鑑別結果通知書に夫々記載の通りであつて、これに徴すると少年が健全な社会人として成熟し、社会にも、家庭にも適応するためには相当期間矯正教育に託し、紀律ある生活の下に、勤労に精進する習慣と健全な精神を涵養することが特に必要と思料されるので少年法第二四条第一項第三号、少年院法第二条に依つて主文の通り決定する。

(昭和三一年一一月九日東京家庭裁判所裁判官 佐藤信一郎)

(別紙)

少年は、

(一) 昭和三一年九月二二日午後五時より翌二三日午後五時の間において○○区○○八の三、九六二鉄工業B(三九才)方居宅二階三畳間において同人所有に係る掛ヂク四ヶ時価二、〇〇〇円相当を窃取し

(二) 更に、同年同月二五日午後五時頃より同六時三〇分頃の間に○○区○○七の二二八毎日新聞○○○販売所店員宿舎六畳間において同店々員K(二四才)所有に係る紺背広上衣一着外四点時価三、四〇〇円相当を窃取し、

(三) 更に、同年同月二七日年後六時一〇分頃より同一一時の間において○○区○○町一〇一M方S(二二才)の居室四畳半の間において同人所有に係る紺背広上衣一着外三点時価一二、〇〇〇円相当を窃取し

(四) 更に同年同月一一日午前九時頃○○区○○○○町二七ラジオ修理工T(一九才)方において同人に対し真実返却の意志がないのに拘らずあたかもこれある如く装い、ギターをかしてくれと申向けて同人をして間違いなく返却を受けられる如く誤信せしめて即時同所において同人からギター一器時価四、〇〇〇円相当の交付を受けてこれを騙取したものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例